会社の数字を掴む①

後継者を決定し、後継者育成に取り組み始める経営者が最初に行うことの1つに損益計算書の公開があります。今まで、売上金額や業績が良い悪いということは伝えられていた後継者は、経営者の指示に基づき営業活動を行い、配車を工夫し、ドライバーの教育を行っています。次の段階は、会社の方針を自らが確定し、その活動が数値としてどのように結果に現れているかを確認するために損益計算書を毎月、公開していきます。


私も経営者から後継者に数字の説明をしてほしいと依頼を受けることがあります。そこで困ることの1つが月次決算書(試算表)のスピードと正確性です。直近の月次決算書を出して頂くと3ヶ月前の資料が出てきたということもあります。

中小運送会社の傾向として、月次決算書の作成を会計事務所に全て委任しています。売上請求書、経費請求書、領収書、賃金台帳などの資料を会計事務所に渡してから、月次決算書の作成作業に入るため、完成が遅れ気味になります。運送業の場合、売上請求金額の確定に時間がかかるケースもあります。売上請求書の完成が遅れると同時に月次決算の作業開始も遅れ、月次決算書の完成までに2~3ヶ月かかることもあります。

しかし、数値を確認して改善策を決定し、行動していくためには、翌月10日には月次決算書を完成させる必要があります。それまでに確定しない売上請求金額は、大きくずれなければ概算でも構いません。日々変わる経営状況の中では、3ヶ月前の正確な月次決算書より前月の概算の月次決算書の方が、経営には非常に役立ちます。

また、運送業の決算書では運送原価に運送に直接かかる経費、例えば、ドライバーの人件費、燃料代、高速道路代、車両の修理代や保険料、傭車代などが計上されます。しかし、運送業を理解されていない者が月次決算書を作成すると運送原価がないこともあります。運送業の数値の要は、売上から運送原価を差し引いた運送粗利益です。ここで会社の営業利益が確定すると言っても過言ではありません。それが表示されていない月次決算書は、売上と営業利益額しか分からず改善活動に結びついていきません。

中には、売上計上基準や経費計上基準が簡便的にされているケースもあります。例えば末締、翌月末に運賃を回収する場合、3月度の売上が3月末締の請求金額ではなく、3月末回収金額(=2月末締)で売上計上されている場合もあり、売上の回収サイトも経費の支払サイトも取引先毎に違うため、毎月の利益さえも正しく表示されていないケースもあります。

後継者育成の最初の段階で始めることは、会社の数字をもとに、会社の実態を正しく把握して、それを改善していくための方針を立てることです。これができなければ、成行き経営となります。中小企業白書によれば創業後20年で約半分の企業が廃業しているというデータの発表がありました。毎期、変革していく企業だけが生存していきます。そのための資料の1つが経営に役立つ月次決算書です。

物流ウィークリー2016年3月21日号に掲載